■三春滝桜

■国天然記念物指定100周年と課題

三春滝桜は、山高神代桜(山梨)や根尾谷薄墨桜(岐阜)とともに「日本三大桜」と呼ばれている。

1922(大正11)年10月12日、三桜は国の天然記念物に指定された。前年制定された天然記念物法で桜が指定されたのはこの三桜が初めて、当時から日本を代表する桜として有名だった。

昨年2022年10月12日は、国指定100周年となるが、滝桜は後継樹育成などで課題が多い。

三桜との樹齢はいずれも1000年を超えると推定されている。神代桜はだいぶ樹勢が衰えている。滝桜がこれからどれくらい生きるかは、誰も予想がつかないし、学術的な研究も公表されていない。したがって後継樹を準備しておく必要があるが、「滝桜が偉大だけに、それがいずれ無くなるかもしれないということは考えたくない」ということは、私はかって滝桜を管理する三春町役場の部局に属していたのでよく理解できる。

滝桜の地元滝集落の人たちが子孫木を生産して観光客などに販売してきたが、高齢に加えて、新型コロナウイルスや暖冬による花期の短縮化などによって観光客が激減して、生産意欲が著しく減退している。

仲田種苗園は、滝集落の橋本芳郎氏と共同で、接ぎ木クローン繁殖による滝桜子孫木の生産販売を2017年から行っている。

私たちの共通の願いとミッションは、「滝桜を後世に残し、世界に広めたい」である。

■接ぎ木によるクローン栽培

滝桜子孫木として販売されているもののほとんどは、実生(みしょう)苗から育てたものである。ご存じのように桜は雌蕊と雄蕊が交配して結実する。滝桜の雌蕊と交配する雄蕊は周辺の多様な桜から虫たちが集めたものなので、実生苗は個体差が大きい。橋本氏によれば、同じ滝桜の実でも、枝垂れるものが20%、花色が滝桜に近いものが20%。つまり4%しか親に近いものができない。一般の方が購入するのは未だ花が咲かない苗木がほとんどだが、成長しても花色が薄いなどのトラブルも多い。

その点接ぎ木はクローン繁殖であるから、親の遺伝子が引き継がれる。

約100年前に橋本氏のご先祖が滝桜の実生苗から最も親に近い樹形と花色の個体を選別(滝桜2代目)、それを母木として接ぎ木繁殖を行っている。つまり私たちは滝桜の孫(滝桜3代目)を生産販売しているが、接ぎ木生産は地元では橋本氏しか行っていない。ちなみに滝桜は国指定天然記念物なので、現在は接ぎ木用の枝を採取することはできない。

滝桜2代目(橋本芳郎氏宅)

滝桜の接ぎ木をする橋本氏

■ブータンでの絆

2011年11月、ブータン国王夫妻が相馬市を訪れて、福島県民に勇気を与えた。国王は桜が好きなので、滝桜を贈りたいという三春町の要望が、JICA草の根活動「三春ブータン交流事業」に結実した。

仲田と橋本氏は専門家としてこの事業に参画、ブータンに贈られた滝桜の育成方法などを現地指導した。この活動や地元での生産減少の現状を鑑みて、私と橋本氏は「なんとか滝桜を後世に伝え、世界に広めたい」という想いを強めた。

■花見オープンナーセリー「桜ロード」整備

仲田種苗園では、近年サイクリング愛好者が激増している石川町沢田農場の農道沿いに、2017年から滝桜子孫木をはじめ八重紅枝垂桜(滝桜は一重の枝垂桜)やヤマザクラのシンボルツリーを植栽してきた。最近は花見のシーズンにはサイクリストや地元の方々も見学に訪れる。花見の観光名所にしてそこから買っていただく、オープンナーセリーを目指している。

桜ロード

2022年9月には、橋本氏が丹精込めて育成してきた滝桜子孫木のうち高さ10mクラスを全部20本譲り受けて沢田農場に移植した。2017年から高さ8m以上の子孫木を橋本氏の圃場から沢田農場に移植しており、今回と合わせると50本となる。

造園園芸業界では、高さ8mの桜をシンボルツリーと認定するが、接ぎ木クローン栽培によって滝桜遺伝子を継承している真正子孫木50本のシンボルツリーコレクションは国内最大となる。すでに全国からの多数の問い合わせがあり、うち1本は皇居を望む一等地への来春の納品が決まっている。

■新聞記事