■雑木の庭の系譜

〇飯田十基 1890~1977

1946年東京ガーデナーズ設立 1947年東京造園倶楽部顧問  1949年多摩植木顧問 1957年東京庭苑設立

〇小形研三 1912~1988

1958年東京庭苑継承 1961年京央造園設計事務所設立

・志村邸庭園(山梨県大月市、1969年)・児玉邸庭園・安納邸庭園(1968年)

〇昭和34(1959)年 仲田種苗園創業

飯田とその弟子小形によって、雑木の庭が開拓されました。その仕事が本格化するのは、1957年飯田が設立し翌年小形が継承した東京庭苑によってです。仲田種苗園は、まさに雑木の庭の開拓期に創業しました。

■自然樹経営

私の父仲田茂(1933~2022)が、仲田種苗園を創業したのが昭和34(1959)年、26歳の時です。最初は杉や松、檜の造林用苗を生産したが、東京都国分寺市恒樹園の小柳友一さんのアドバイスにより、緑化用樹木に転換しました。小柳さんは私の祖父美種の友人でした。緑化用樹木と言っても松や槙などの仕立物ではなく、当時珍しかった雑木類です。

茂が平成24(2012)に書いた創業記には、「自然樹経営を主とした理由」が書かれています。                                「庭園樹の産地としては、古くから関東の安行、東海の稲沢、九州の久留米が知られていた。これに対して、東北地方は寒冷地であるために育苗が難しく、自生している自然木を商品化することが良いと考えた。東京の小柳友一さんの協力を得て、雑木高木類などを首都圏の自然愛好家の造園工事業者に出荷した。当時は東京まで車で片道8時間かかった」。

私が茂から聞いた話では、国分寺市にあった植木市場に運び、主に多摩植木などに買ってもらいました。多摩植木は飯田が顧問を務めたこともあり、東京庭苑に植木を納品していました。まさに父が言う「首都圏の自然愛好家の造園工事業者」とは、飯田、小形、東京庭苑の人たちだったことでしょう。

SNSでこのような経緯を紹介したら、ある建築家の方から次のようなメッセージをいただいた。

「師からの暑中見舞いを持参した縁で、飯田十基さんとは、晩年、何回も初台の御自宅にお邪魔し、それこそ孫ぐらい離れた大学院生の私に、様々お話しをしていただきました。ある時、スーツ姿の紳士とお庭ですれちがいましたが、その方が小形さんだと、飯田さんからお話しを聞きました。雑木の生産者の話しも飯田さんからききましたが、お父様だったのですね」。

小形は特にコナラを愛しました。「武蔵野の雑木といわれて庭に使われるのはナラが一番多く、次にソロ(シデともいう)」(「庭・自然と造形ー小形研三作品集、1973年)

山梨県大月市、志村邸庭園(1969)
いろいろに曲がった自然樹形のコナラが植栽のベース。
立ち数も、単木、双幹、3本立ちをリズミカルに配植。
志村邸のコナラも、フジが絡んだ痕跡など山採りの証拠があり、もしかしたら父が運んだものかも知れません。
 志村邸庭園(小形作品集より)
■山採りから生産へ
仲田種苗園は、「在来種のうち優良なものを商品化する」という創業者(仲田茂)の理念を現在も継承しています。最初は山採りから始まるものが多いですが、それを生産に置き換えて規模拡大してきたのが、創業以来60数年の歴史です。茂は、アセビやヤマツツジの挿し木繁殖を業界に先駆けて実践販売して、前者の功績で日本植木協会経営コンクール「日本緑化センター会長賞」(1984年)後者で同コンクール「林野庁長官賞」1995年)を受賞しました。

 

現在小形など雑木の庭の開拓者が愛したコナラを再評価生産しています。

■生態的栽培

イロハモミジは、渓流沿いに自生(照葉樹林帯渓谷植生ケヤキ-イロハモミジ群衆)。半日陰、適度な空中湿度、肥沃な土壌を好みます。
逆に、現在人気のアオダモは、水はけの良い山の稜線付近に自生します。
仲田種苗園では1960年の創業以来、植生に対応した樹木生産を行っています(生態的栽培)。
10haの青生野ガーデン倶楽部では、谷部にモミジ、山部ではアオダモなどを生産しています。
10haの青生野ガーデン倶楽部(福島県鮫川村)
 
山部でのアオダモ生産、ブナの林床で育成
谷部でのモミジ生産
■持続的な自然樹生産
「近大マグロならぬ仲田アオダモ」。
近年山採り雑木、特にアオダモの人気が過熱化しています。
開拓期においては山採りは重要ですが、採集だけで生産に置き換えないと、資源が枯渇して、いずれ自然環境にストレスを与える可能性があります。
仲田種苗園では、平地の矢吹農場で種まき育成したアオダモ苗木を、標高650mの青生野ガーデン倶楽部ブナの林床で馴化させて自然樹形にする「山上げ」(山採りの対語)を実践しています。
柔らかい樹形はもちろん、寒暖差が激しいために、アオダモ特有の斑紋(パンダ文様)もしっかりでます。
山上げを、今後他の社園や社有林に拡大して、自然樹の持続的な生産を行ってまいります。
仲田種苗園矢吹農場:アオダモ苗木を育成
青生野ガーデン倶楽部:ブナの森に「山上げ」して育成しているアオダモ
■「山上げ」の拡大
白鳥の森(2ha)。
私たちは、毎冬白鳥が訪れる大池に隣接するコナラなどの2次林の林床で、アオダモなどの雑木やそれらを寄せ植えしたハッピーツリーを育成しています。
畑で種を蒔き、2mぐらいまでになった苗木を、数年コナラ林床で馴化させると、柔らかい自然樹形になります。
雑木を植木用に採集する山採りに対語として、「山上げ」と呼びます。
仲田種苗園では、山上げを拡大して、自然樹の持続的な生産を行ってまいります。
対象地は白鳥の森2ha、青生野ガーデン倶楽部10ha、やまびこテラス周辺10haです。
白鳥の森(2ha):コナラの林床で、アオダモ、モミジなど3種高木を寄せ植えしたハッピーツリーを育成。

やまびこテラス(10ha):杉林ではモミジ類、落葉樹林では落葉樹樹苗木を山上げする計画。