2016年5 月 27 日、現地に到着。花博開幕まで1週間しかない。早速、空港近くの花博会場に行ってみると、手配したはずの竹などの材料の到着が遅れている。トラック1杯の竹は2 日後に届いたが、時間が足りないという状況は変わらなかった。

この窮地を救ったのが、昨年三春町 など福島県内で 1 カ月の研修を受けた農林省職員のテンジン君(27)とティンレイ君(27) だ。「留学組」の両君は日本造園の基礎技術を身に着けていると同時に、我々とブータン人のコミュニケーションをサポートしてくれた。まず日本の造園の基本である竹垣(四つ目垣)を作る為に、私の会社のベテラン造園家である岡部が縄の結び方を数人のブータン人に教えた。最初は戸惑っていたが、テンジン君とティンレイ君がうまくサポートしてくれたので、みるみる上達した。

一方私は、7 月に現地実習のため来日予定の農林省職員ツェリンさんらと、政府から特別の許可を得て標高 4,000mの峠に登り、活け花用のシャクナゲを採集した。空気が薄くて、息苦しかったが、日本の何十倍もの種類があるシャクナゲに魅了され、また峠のランチではブータンスタッフが素敵な弁当を用意してくれた。

1千年前に日本で書かれた作庭記に「自然の摂理に学べ」と書かれているように、日本造園の本質は、自然に学び自然を活かすこと。昨年からのJICA草の根技術協力事業では、急激な都市化により環境が悪化している首都ティンプーを緑化するために、ブータンの自然や植物を、日本の造園技術で活かすことを提案、その趣旨でブータン人を訓練してきた。その成果が、今回花博の日本ガーデンだ。古城パロ・ゾンをどんと借景に使った日本庭園は、既存の柳を利用して風情を出した。また種類豊富なシャクナゲを会場に活けたのも、ブータンの植物資源の素晴らしさを知ってもらうためだ。

6月初旬という花博の日程は、実は当初の予定より2週間遅くなっていた。私たちが到着するとすでに雨季の始まりで、連日激しいにわか雨に見舞われた。そのため急きょ、庭園の一部に予定していなかった屋根をかけることになった。風情ある柳の枝だが、いたるところで屋根掛けの邪魔になるのだが、ブータン人は枝 1 本切るべきでないという。岡部とブータン人は苦労しながら協力、竹製のフレームと半透明のファイバー製波板を切抜いて組み合わせた見事な屋根をオープン直前に完成した。この屋根の下、野点の茶席では会期中、雨の心配をせずにすんだ。

施工中に訪れた国王陛下も、柳を活かす努力に感心してくださった。国王には、この時と開会日の 2 回、握手していただいた。また花博実行委員長の王母陛下は、日本庭園のデザインや竹垣などの繊細で美しい仕上がりに大いに感心された。私が「これらはブータン人が作ったものです」と説明すると、「Great Job(素晴らしいお仕事ですね)」とお褒めをいただいたのだった。

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左から2人目キンレイ新農業局長、3人目私、4人目テンジン前農林次官
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造園スタッフ
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標高4000Mへ花材調達、豪華なランチ
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私が創作した大生け花(シャクナゲなど)
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盆栽師平尾政志さん、技術もスゴイが性格も素晴らしい
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前列中央が、ブータン首相
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花博の審査員を務めた。